

九州の旅、二日目は熊本から九州横断特急に乗り、大分へと向かいます。
三時間ほど乗ることになる九州横断特急は、別府駅から人吉駅までをつな
ぐ横断列車なのですが、これも私がどうしても乗りたかった列車です。
駅弁を車内で食べ、美しく流れる車窓の風景を眺め、ときどきスケッチを
して…と、長い列車旅のイメージトレーニングはまさに完璧。
ところが、動き出してまもなく流れたアナウンスに驚愕の事実が…。
なんと、期待していた駅弁が、熊本駅を出てすぐに完売したとのこと。
車内販売開始のお知らせ後、すぐのことだったので、一瞬頭がまっしろに
なったのですが、よく考えてみれば、私たちの座席は先頭車両の前から二
番目。通常、車内販売は後方の車両から前へと移動してくるので、たとえ
駅弁がたくさん用意されていても、後方のお客さんが順に買ってゆけば、
先頭車両にたどり着く前に多くは残らないはずです。
それにしても、完売はまったくの予想外。列車が発車したのはちょうどお昼
どきで、私たちは昼ご飯代わりになるものを何も用意していなかったため、
まさかの昼ぬき列車旅の決定です。
盛り上がった気分もいっきに下がり、なんともふぬけな状態の私でしたが、
いざ列車が進んでゆけば、目の前に飛び込む九州の大自然の風景にくぎづ
けになっていました。大きくどっしり連なる山の峰、澄みきった川の水が
光をあつめてきらきらと反射する様子、うつくしく整えられた段々畑。
力強くて野性を秘めた阿蘇の雄大な姿に、しばし言葉をわすれ、眺めてい
たのでした。
途中、山の急勾配を上るため、スイッチバックをする列車の懸命な動きが
振動となって、体に伝わるところもまた、感動的。
気がつけば、あんなにはらぺこだった私のおなかも、いつのまにか満たさ
れていたような、いい気分でした。
